青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました


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 ゆっくりとホテルへ向かうリムジンの中で、蒼馬は冷静を装うことだけに集中していた。

 隣に座る史香は不安なのか口数が少なくなってしまった。

 蒼馬もまるで初めてデートに誘った中学生男子のように手汗をかいて何度もハンカチを握りしめていた。

 こんな緊張は久しぶりだ。

 留学時代にホワイトハウスに招かれた時以来だろうか。

 史香はこれまで自分を通り過ぎていった女たちとは明らかに違う。

 どこがどうと説明はつかないが運命の出会いだということは肌で感じる。

 留学していた時に、道源寺の家柄や資産を知らない相手と出会った蒼馬は、初めてしがらみのない自由な交際を経験した。

 里桜のような有名人の娘でもなく、見合いで紹介されるような良家のお嬢さんとも違う相手に夢中になった。

 ただ、その相手とは帰国を機に別れてしまった。

 失礼ながら、お互いに飽きたというか、熱が冷めたとしか言いようがない感覚だった。

 海外と日本という環境の差も大きかったのかもしれない。

 どうしても日本では道源寺の名前や立場が大きくのしかかってきてしまうのだ。

 それ以来、何人もの相手を紹介され、交際をしてみたものの、心が躍るような経験はほとんどなかった。

 たまに気の合う女性と知り合うことがあっても、他に婚約者がいたり、次に会おうとした時にはすでに結婚していたりと、まるで当て馬のような役割をさせられたこともある。

 夫となる男に経験のない女だと見下されたくないとか、煮え切らない相手に踏ん切りをつけさせるためとか、近寄ってくるのは道源寺の跡取り息子との関係を匂わせることで箔付けを狙った連中ばかりだった。

 そんな中で、里桜の好意は純粋なものだと感じていた。

 だからこそ、蒼馬はおじけづいていたのだ。

 自分にその気がないのに里桜を利用することはできない。

 むしろ、一度でも関係を持てばあっさりと他の男に目が向くのかもしれないとしても、蒼馬の方からそれを試すことはできなかったし、兄のような保護者として、どうしても最後の一線を越えることはためらわれたのだった。

 ――俺は、寂しい男なんじゃないのか。

 史香のそばにいると、ふと、そんなことを感じてしまう。

 何もかも手に入るのに、本当にほしいものは何一つ持っていない。

 打算と妥協。

 政財界のパーティーにうんざりしていたのも、そういった経験が積み重なった結果なのだった。

 心の中に開いた空虚な穴に落ち込んでしまいそうになるのを必死にもがいてきたのかもしれない。