青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました

 そのせいかどうかは分からない。

「私は、一晩だけの方がいいです」

 自分でもどうしてそんなセリフを言ってしまったのか、困惑してしまった。

 蒼馬の目が見開く。

「どうして?」

「ずっと一緒にいられる自信がありませんし、どうせ遊び飽きて捨てられるなら、最初からそのつもりでいた方が気持ちが楽でしょうから」

「遊びじゃないよ」

「なら、お断りします」

 ふっと蒼馬が笑みを漏らす。

「頑固だね、君は」

「嫌いになりましたか」

「いや、ますます興味が増したよ。君のことをもっと知りたい。全部、深く知りたい」

 そして、重ねていた手に力を込めた。

「男として」

 それなら、と史香は蒼馬をまっすぐに見つめた。

「一晩だけで忘れてください。私もそうしますから」

 唇を真一文字に結んで蒼馬は返事をしない。

「あらかじめ別れるって約束してもらえた方が安心です」

「俺に嘘つきになれと?」

「嘘の方がお互いに楽かも知れませんから」

「君はそれでいいの?」

「ずっと質問ばかりですね」

「そうだね」と、蒼馬は笑みを浮かべると、カウンターチェアから降りて立った。「君は何委員だったの?」

 史香も蒼馬に寄り添って立つ。

「お茶委員です」

「そんなのがあったの?」

「私、静岡出身なので」

「なるほど」と、蒼馬は史香と腕を組んでエレベーターに向かって歩き出した。「お互いに、まだいろいろと知らなければいけないことがありそうだね」

「歴史の勉強が好きなんですね」

「君ほどじゃないよ。未来の話を拒んでいるのは君の方じゃないか」

 それはその通りだ。

 最初から私たちに未来なんてない。

 この恋はただのリハーサルなんだから。