青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました

 あらためてまわりを見てみると、国会で居眠りばかりしている大臣と選挙特番の顔と言われる学者さんが笑いながら話していたり、子供の頃に親が見ていたサスペンスドラマの女王がキャビアの載ったカナッペを口に入れたりしている。

 崩れそうな膝をなんとか持ちこたえて史香は近くのスタッフにグラスを渡した。

「森泉元総理がお酒のおかわりだそうです。あ、同じ物だそうです」

「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」

 すごいな、同じ物で分かるのか。

 と、見ていると、スタッフはテーブルの陰から史香も見慣れたアニメキャラの描かれたボトルを取り出した。

 あれ、それ、クリスマスに子供が飲む炭酸飲料ですよね。

 ポンと音を立てて栓を抜くと、きれいに磨かれたシャンパングラスにシュワッとドリンクが注がれる。

「森泉様はお酒を飲まれないんですよ」と、スタッフがそっと教えてくれる。

「あ、そうなんですか」

「人からお酒を勧められて断らなくて済むように、つねにドリンクの入ったグラスを持っているようにしているのだそうです」

 へえ、政治家って大変なんだな。

「でも、甘いドリンクがおいしくてつい飲んでしまって、お医者さんに怒られるんだそうですよ」

 スタッフは史香に代わってグラスを元総理に届けに行ってくれた。

 談笑の輪の中へ入っていくこともできないし、かといって、歩き回っていると今みたいにスタッフと間違われそうなので、史香はグラスを持って壁際に立っていることにした。

 やっぱりこの地味なスーツだとそう思われても仕方がないよね。

 居心地が悪くてシャンパンの味もよく分からない。

 退屈しのぎに話し相手をしろと連れてきたくせに、蒼馬は客たちへのあいさつまわりで忙しく、史香のことなど忘れているかのようだった。

 私の方が退屈なんですけど。

 手持ち無沙汰で帰りたくなった頃、ホールの入り口がざわつきだした。

 スポットライトもないのに急に華やいだような気がした。

「蒼ちゃーん!」

 年の割に、シックなドレスに身を包んだ若い女性が手を振っている。

 自分に視線を集中させ、見られたい自分の姿をそのまままわりに印象づけることのできる女性だ。

 周囲の客から感嘆の声が上がる。

「久永さんの娘さん?」と、史香のそばで年配の女性たちが話している。

「お母様はいらしてないのかしら」

「髪型を真似したり、私も憧れたわ」

「里桜ちゃんも若い頃のお母様にそっくりよね」

 里桜は花から花へと舞う蝶のように人の間をすり抜けて蒼馬へと向かっていく。

「ねえ、蒼ちゃん、お母様のドレスをアレンジしてみたの。どうかしら?」

 だが、蒼馬は呼びかける彼女に視線を向けることなくまっすぐに史香のところへやってきた。

 そして、いきなり背中に手を回し彼女を抱き寄せた。

「ちょ、何す……」

 抗議はキスで塞がれていた。