近衛君と本の話をする内に、いつの間にかお互いの個人的な話もするようになった。

 たとえば近衛、君には一人妹さんがいて、年が離れているためとても幼いんだとか。
 辛いものが好きで、苦いものが嫌いだとか。
 動物が好きで、特に猫が好きなのだとか。
 そんな在り来りで定番の話を交わすようになった。
 私は家族についてはノーコメントにしたけど、それ以外の話は返した。

 私の育ちや家庭環境を知ったところで何も良いことないしね。

 それにしても、同い年の人と自分のことを話すのって結構ドキドキするな。
 勿論ワクワクもするけど、コミュ障ゆえに緊張が強い。
 あと、私の話なんてどうでもいんじゃ、なんてどうしようもなく暗いことを思ってしまうから。

 今日も、いつも通り本の話をして一旦会話が落ち着くと、近衛君は頬杖をついて私を見つめる。

「そういえばさ、弥上さんは教室来ないの?」
 
 じっと綺麗な瞳をこちらに向けて無邪気に尋ねてきた近衛君。
 出会ってから一度も聞かれなかった質問に心臓が凍りつきかけた。
 …おっと、ここで来たか。
 唐突な地雷に驚きすぎて瞠目(どうもく)する。
 
『…え、どうして?』
 

 どうか声が震えていませんように。