「私なんか、なんて言わないで」

 ずっと、どこで望んでいた言葉に息が止まりかけた。

 無意味な存在()を認めてくれるような言葉。
 彼の優しい声に初めて怒りが混ざった瞬間だった。

 顔は見てないけど、分かる。
 あぁ、これは、嘘じゃない。

「弥上さんって本好きなんだよね?
 僕も好きだから、ここでその話とかしようよ」

 怒った声から優しい声に戻り、近衛君は話を続けた。
 …私が本好きなの、知ってるんだ。
 …それに、ここで、本の話。
 
 本の話をできる人が増えるのは嬉しいことだ

 でも、相手はめちゃくちゃイケメンだし、どう考えても世界が違いすぎるし…。
 
 長い長い葛藤の末に、私は受け入れることに決めた。

「よろしくね、弥上さん」
『………よろしく、近衛君』
 
 近衛君は授業の資料を取りに来ていた序にここへ寄ったらしく、(あわ)てた様子で戻っていった。
 私は走り去っていく背中をポカンとしながら見送った。

 その日以降、近衛君と私は図書室で本の話をするようになる。
 知り合いというには物足りず、友人というには烏滸(おこ)がましい。
 そんな不思議な関係の始まりだった。