『私は多分誰からも愛されない人間なんだろうな』


 夕日で赤く染まった廊下に立ち尽くし、独り呟いた。

 愛なんて不確かなものを信じるなんて、馬鹿みたいだけど。
 生まれてきて、どんなものより一番に欲しかったモノだった。

 だって私には、誰かを愛することも誰かに愛されることも何一つ分からないから。
 それどころか、生まれてこなければ良かったって、何度思ったことか。

 過る記憶に、視界が淡くぼやけていく。
 


『…それでも、諦めきれないや』  



 人間は、往生際が悪い生き物だから。
 どんなに絶望したとしても、どこかで期待してしまう生き物だから。 

 本当に、愚かだと思う。

 頬を伝う涙を袖で拭って、止めていた足を歩き出した。