「落ちついて、な」


 小声でわたしにささやいてから、用意されたイスに腰かけ、ギターを弾く準備をする花宮くん。

 静まり返る会場――。

 わたしは、マイクに向かって口を開いた。


「それでは、きいてください。『クスノキの記憶』――」


 あっ、大事な歌のタイトルのところで、声が裏返っちゃった!

 観客席から、クスクスと、失笑が聞こえてくる。

 わわっ、どうしよう!?

 顔から火が出るよ! この場から消えさってしまいたい!

 やっぱり、わたしには場違いなステージなんだ。

 だって、わたしは空気みたいな存在なんだもの。

 どうせ歌っても、声がふるえて、また笑われるに決まってる。


 すると――。

 失笑を打ち消すように、ギターの演奏がはじまった。


 ――おれのギターの音だけに集中しろ。


 花宮くんの言葉が、頭の中にひびいた。

 その瞬間、自分の意識が、花宮くんの演奏にダイレクトにつながる感覚になって……。

 わたし、花宮くんの弾く音色が好き。

 乃々果お姉さんに教えこまれた、基本に忠実な弾き方と、正確なリズム感。

 そして、どこかやさしくて。


「四百年も前からずっと

 みんなを見守ってきた」


 歌いだすと――声はふるえてない!