「それでもやっぱり、さびしくなるときはあって……。一番印象に残ってる家族の記憶って、三人で大楠公園まで出かけていって、クスノキを見上げてる光景なんです。パパとママは、あのクスノキの下で出会ったそうで……」

「えっ!?」


 花宮くんが急に立ちどまって大声を出したから、びっくりしてしまった。


「ど、どうしたんですか!?」

「い、いや……何でもないよ」


 照れくさそうに頬をかく花宮くん。

 どうしたんだろう?


「あっ、わたしも花宮くんにききたかったことがあるんですけど……。わたしがクスノキの前で歌ってるのを花宮くんにきかれちゃったとき――花宮くんは、どうしてあそこにいたんですか?」

「えっ、えっ……?」


 明らかにうろたえだす花宮くん。


「なんとなく気になって……」

「それは……ナイショ!」


 花宮くんは、開きなおったように、ニヤッとして舌を出した。


「えー、ズルいです!」


 わたしが抗議すると、冷たい風が吹いた。

 もうすぐ冬がやってくることを()げるかのような風だ。


「ひゃあ、寒い~」


 ぶるっと体をふるわせると、花宮くんがわたしの右手をとって、ぎゅっと握ってきた。


「…………」


 花宮くんの温もりが伝わってきて、あったかい。


「芽衣。明日、緊張したら、おれのギターの音だけに集中しろ。芽衣の想いが歌にのっかるように、おれ、全力で弾くからさ」

「はい!」


 わたしは、ぎゅっと花宮くんの左手を握り返した。