クスノキの歌姫

 すると、いつの間にか、小さな子どもたちに囲まれていて。

 恥ずかしくなって、歌を止めようとしたわたしに、花宮くんは「続けろよ」って、目配せしてきた。

 最後まで歌いきると。

 子どもたちの拍手がひびいた。


「わあ! プロみたい!」

「キレイな声だったぁ」


 口々に、一生懸命、感想を伝えてくれるのが、とってもかわいらしい。

 自信と勇気がみなぎってくる。


「お姉ちゃんたち、恋人~? もうチューはしたの~?」

「えっ……!?」


 ひとりの男の子が、いたずらっぽい表情でからかってきた。

 わたしの思考はストップして、かーっと顔が熱をおびる。


「ば、バカ野郎! そんなんじゃねーよ! こんのマセガキ!」


 花宮くんがうろたえて声を荒げると、子どもたちはみんなして、

「恋人! 恋人!」

 って、大さわぎしながら逃げていく。


「待ちやがれ!」


 花宮くんは、子どもたちを追いかけていった。

 こんな無邪気な花宮くんは激レアだよ。

 学校のみんなは知らない一面かも。

 その後、わたしも加わって、大規模な鬼ごっこになったのでした。