クスノキの歌姫

 それから、わたしはノートに書いておいた歌詞を見せた。


「とりあえず、一番と二番の歌詞を書いてみました」


 授業中、先生の目を盗んで、なんとか完成させた歌詞だった。


「これイイじゃん!」

「ああ、とってもイイと思うぜ」


 ふたりがほめてくれて、くすぐったい心地になった。

 それから、防音室に移動して、クスノキの前で即興で歌ったときを思いだしながら、フルコーラスで歌ってみる。

 またも絶賛の嵐!

 わたしの歌声をスマホで録音して、それを何度も流しながら、乃々果お姉さんがアコースティックギターで作曲していった。

 それを弾けるように、花宮くんの特訓がスタート!

 わたしも、完ぺきに歌いこなせるように、ひたすら練習をくり返したんだ。


     ◆


「芽衣。最後にもう一度、合わせようぜ」

「はい」


 花宮くんの奏でるギターの旋律(せんりつ)に、わたしの歌声を重ねあわせる。

 イイ感じ!

 土曜日の昼下がり。

 わたしと花宮くんは、明日の本番にむけて、大楠公園のクスノキのそばで最後のリハーサルをしていた。

 クスノキに向かって歌いながら、パパとママに話しかける。


 ――ついに明日、本番なの。わたしにできることをやってみるよ。だから……見守っていてね。