「まあ、仮にだけど、ホントに上手かったとして……。歌唱テストで緊張する子が、市民ホールの舞台で、本領(ほんりょう)を発揮できるの? って話よ」

「…………」


 萌ちゃんが言葉につまったのを見るや、勝ちほこったように鼻を鳴らす乙葉さん。

 悔しいけれど、わたしには言い返せない。

 そんな勇気はないし、そもそも……乙葉さんの言うとおりなんだもの。

 きっと、声は緊張でふるえてしまって、マトモには歌えない……。


「おいおい、ずいぶんと言ってくれんじゃねーか」


 うしろから、声がふってきた。

 ふり返ると、わたしのすぐ背後に、花宮くんがっ!


「は、花宮くん……」


 わたしはびっくりして、固まってしまった。

 花宮くんは乙葉さんたちをじろりと見やって、

「本領を発揮できるかどうか……は、やってみなきゃわかんねー」

 って言ったあと、ニヤリとした。


「大体、舞台に立つのは咲真ひとりじゃねーよ。おれがギターで伴奏するんだし」

「そ、そうなの? まあ、お互い、がんばりましょう」


 乙葉さんが目を泳がせながら言うと、花宮くんは「おう」って、さわやかにほほ笑んだ。