「しかしなあ、いっしょにアピールコンテストに出るのに、咲真を誘うってのはどうなんだ?」

「えっ?」


 冷たい声色できき返す花宮くんに、乾先生は半笑いで答える。


「いや、咲真はおとなしいだろ。何をするつもりかわからんが、市民ホールの舞台に立たせるのはかわいそうだぞ。人には向き不向きってのがあるからな」


 かわいそう――。

 ずきん、と胸が痛む。

 わたし自身が何より、アピールコンテストなんてガラじゃないことはわかってる。

 みんなの前で歌うなんて無理! って思ってる。

 だけど……先生に「かわいそう」って言われるのは、イヤ~な感じがする。


「まあ、そういうことで、おまえら、もう帰っていいぞ」


 乾先生が腰を浮かせたときだった。


「……おかしいだろ」


 ぼそり、と花宮くんがつぶやいたんだ。


「なんだ、花宮」


 乾先生が眉をひそめて、また室内がピリッとした。


「おかしいって言ってんですよ。『かわいそう』はおかしくね? 教師だったら、背中を押すような一言くらいあってもいいんじゃねーの?」


 立ちあがって乾先生にまくし立てた花宮くんは、興奮して、途中から敬語じゃなくなってしまった。


「…………」


 乾先生は花宮くんをにらみつけたまま、何も言えないでいる。


 ――おまえは、もっと自信もっていいんじゃね?


 花宮くんは、わたしの歌を認めてくれた。

 その上で、わたしを頼って、背中を押そうとしてくれたんだ。