「アピールコンテストに、いっしょに出ないかって誘ってくれたんです!」

「……アピールコンテストって、市民ホールでやるやつか?」


 目を丸くする乾先生。


「はい。それで……大事な話だし……花宮くんは、だれにもきかれないところで話をしたかったんだと……思います……」


 最後のほうは、消え入りそうな声になってしまった。

 乾先生は、花宮くんを見やって、

「本当か、花宮?」

「はい……」


 花宮くんが不服そうにうなずくと、乾先生は背もたれに背中をあずけて、表情をゆるめた。


「なんだ、そういうことか。いや、おれはな、花宮。おまえのことを心配してたんだよ。サッカー部の顧問の細谷(ほそや)先生から、おまえがケガしたって聞いてたからな。まあ、そういったことで挫折して、自暴自棄(じぼうじき)になった生徒を知ってるんだ」


 乾先生の口調はやわらかくなったけれど、言ってることはヒドイと思う。

 花宮くんが目標を見失って、まちがった道に進むかもしれないって、疑ってたってことだから……。


「まあ、なんにせよ、打ちこめるものがあるなら安心だ。ただし、学校の規則は守るように」


 ちょっと引っかかるけれど、乾先生の説教は終わりそうで、わたしはほっとしていた。