「ああ、わりぃ。あとから行くわ」


 花宮くんは片手をあげてあやまると、わたしに向きなおって、

「ちょっといいか? おれ、咲真と話したいことあってさ」

「はあ……」

「咲真って、あのクスノキに思い入れ、あんの?」

「えっ……?」


 唐突な問いかけに、わたしは固まってしまった。


「いや……クスノキに向かって歌ってたろ? よっぽど思い入れあるんだろうなって思ってさ……」

「…………」


 どう答えていいかわからず、黙りこくってしまう。

 天国にいるパパとママに向けて歌ってる――なんて言ったら、ドン引きされるだろうし。

 すると、まわりからヒソヒソ声がして、わたしは我に返った。

 廊下でおしゃべりしていた女の子たちが、わたしたちをじっと見ている。

 人気者の花宮くんと、わたしなんかが立ち話しているのは、悪目立ちするんだろうな。


 ――いつも空気みたいなアンタが、花宮くんと話すなんて、生意気よ!


 そんな心の声が聞こえたような気がして、立ちすくんでしまう。


「あー、ここじゃ話しにくいな。咲真、あっち行こうぜ」


 聞こえよがしに大きな声で言うと、スタスタと歩きはじめる花宮くん。

 ええっ! ちょっと待ってよ!

 そう言いたかったけれど、うまく口が開かない。