一条side




「なんだろね、ぜんぜん隠れられてないしすぐ捕まえられるんだけど。逃げ足だけは速いあの感じ」



沙蘭の困り声は決して困っているものには聞こえなく、むしろそれさえ楽しんでいるものだった。


「教育係を任せる」とは確かに言ったが、俺としては冗談半分でもあったってのに。

こいつは意外と犬丸を気に入っている。



「あ、そういえば大泣きしてた親知らずはどうなったの?」


「無事に歯医者で引っこ抜いてもらったっぽい」


「そりゃ安心。…ふはっ。大騒ぎだっただろーなあ、あの子」



しかしマミが現れてから数日後、まさかの俺たちからまた逃げるという選択をした犬丸。

そんなことしたってもう逃げられねーってのに。



「マミちゃんをどうにかしないと、わんこちゃんまた何回も逃亡するんじゃない?」


「…わかってる」



どうにかしようにも、あいつと関わるだけ疲れるんだよ。

小学生の頃に親を通して知り合って、そこまで親睦が深いというわけではなかったが本人は幼なじみと言い張ってくる。