公爵夫人に宛てたお願いの手紙には、快い返事が来た。


メルバーン卿が約束通りわたしの執務室を訪れ、十日後と指定されたので、それまでに諸々を取りまとめる。


「ご機嫌よう、ジュディス文官。綺麗な形のドレスだね。よく似合っている」

「ご機嫌よう、メルバーン卿。ありがとう存じます。本日はよろしくお願いいたします」


当日、律儀に迎えに来たメルバーン卿が、これまた律儀にこちらを褒めてから、馬車に案内してくれた。


王城から少し離れた、人通りの少ない道に寄せてあった馬車には、公爵家の紋章がない。辻馬車に見せかけてくれるらしい。


ほんとうはお仕着せを着たかったくらいなのだけれど、そうすると、わたしの顔を知らない者にも王城の用事だと分かる。

ましてやわたしの顔を知っている者には、女王のお使いだと知らしめてしまう。


仕方なく、ドレスは手持ちで一番質のよい、華美にならない紺のものを選んだ。


向かい合って乗り込み、がたごと馬車に揺られる。緊張で手を握りしめるわたしに、メルバーン卿が微笑んだ。


「今日はみな出払っていて、母だけなんだ。身内の欲目かもしれないが、母は温厚なひとだから、安心してほしい」

「ご配慮ありがとう存じます。おかげさまで安心いたしました。陛下のためにも、精一杯お願い申し上げてみますわ」


公爵家で待つのは公爵夫人だけで、公爵閣下や他のご家族はいないらしい。みなさん、王都で持ちきりの演目をご観劇なさっているのですって。


おそらく、こちらの礼儀作法が少しくらい拙くても問題にならないよう、意図的に席を外してくださったのだわ。そういうお出かけは、本来、家族全員でするものだもの。


陛下のご意向が外にもれないように、夫人だけ体調がすぐれないことにでもして、うまく残ってくださったのでしょう。

家を離れているメルバーン卿は、具合の悪い母を心配して、久しぶりに公爵家に戻り、様子を見に来たことにでもするのでしょうね。