真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇

執務室に案内する。その相手がたとえ独身のメルバーン卿であっても、変な噂にならないのが嬉しいわ。


私室ではないから、仕事の都合で男性と二人きりになることは充分あり得る。


メルバーン卿は休憩の申請をまだ取っていなかったそうなので、すぐに申請してきてもらい、ゆっくりお茶を淹れた。


わたしは普段、きれいな紅茶を淹れない。味がついていない水は飲めたものではないので、ハーブを鍋で煮詰めてお湯に味をつけている。


紅茶を淹れるとなると、薬缶にぐらぐらと湯を沸かさなくてはいけない。それが何とも手間なのだ。


この国では、水回りがすぐ詰まる。薬缶もすぐ石灰化するし、洗濯物も灰色になるし。だから、女王陛下の白は貴重で高貴なものとされる。


鍋なら洗いやすいけれど、薬缶となると注ぎ口のお手入れが面倒で、自分ひとりではあんまり淹れないのよね。


さすがにお客さまにお出しするとなると、きれいな紅茶を淹れる必要がある。そういうときだけ、頑張って淹れている。


お昼はいつも厨房に頼んでいるから、料理番に頼んで二人分にしてもらった。軽食をつまみながら、こだわりを見せる。


広々とした棚、特注の便箋や封筒、大きな窓、木目のうつくしい机。


仕事道具のすぐそばに置いてある、十角形の机を見遣ったメルバーン卿が、ふと笑みをこぼした。彼にはこの机の意味が分かる。


「過ごしやすくてよい部屋だ。やはり一人部屋だと仕事が捗りそうで、心惹かれるよ」


子どもじみた憧れがにじんだ語尾に、こちらもくすりと笑う。


「メルバーン卿は有能なお方とこちらにまで聞こえるほどですもの。きっとすぐですよ」


それよりも先に、領地に戻って公爵としての仕事を始めるかもしれないけれど。