真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇

「紋章もうつくしいのだとか」

「紋章画家の方が、たいへんよいものを考えてくださいました」

「ほう」


腰を落としたメルバーン卿が、襟元に顔を近づけた。


お仕着せに縫い付けてある紋章を見るためだとは分かるけれど、突然近づかれると驚く。


待って待って待って、このひとはこんなに距離が近いひとだったかしら……!? 鼻高い顔きれいまつ毛も長い、わああ、な、なんだかいい香りがする。

甘やかでちょっとスパイシーな感じの木の香り。多分これは公爵領でよく採れる樹木のものかなと思うっていうか近いっていうか……!


きゅ、と口を結んで固まるこちらには気がつかずに、小さな紋章を丁寧に観察したヘイゼルが、穏やかに伏せられた。


「薔薇と真珠とペンか。きみによく似合う」

「ええ、わたしは陛下の薔薇(プリムローズ)ですもの」


声が揺れなくてよかった。ようやく離れたメルバーン卿に、うるさい心音に気がつかれずに済む。


「優美な紋章だな。特注の便箋もあるんだって?」

「ええ。陛下のご厚意で作っていただきました」

「きみに紙を渡さずに、一体誰に渡すのかという話だものな」


微笑みを履いたままの口元を見ながら、ちらりと周囲を気にかける。


よかった、まだ誰もいない。メルバーン卿との距離を間違うと、主に女性陣が黙っていない。