真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇

メルバーン家は、仕官せず、公爵家の領地経営に専念しても問題ないほど豊かな家。

上に立つ者としてふさわしくあれと教育を施された公爵子息が、わざわざ王城勤めをする必要はない。


上官は公爵家より下位のものが多い。逆に、領地であればそのうち必ず一番上位になる。

領地にいればもてはやされ、嫌な思いはしないで済むけれど、わざわざ出てくると、やっかみや面倒ごとが山と舞い込む。苦労を重ねるだけ。


後継などのお家絡みの責務を嫌がってはいないようだけれど、長年仕官していることからも分かるように、このひとは普段の会話において、いたずらに権力を振りかざすことを遠ざけたがる。


「わかったやめよう、私が悪かった。ジュディス文官、せめて卿にしてくれないだろうか」

「ええ、もちろんですわ」


お手上げだ、というように両手を上げてみせたメルバーン卿は、いまだ書類を携えていて、なんとも締まらないわ。


「叙爵にともなって、私室と執務室が専用になったと聞いたよ。おめでとう」

「ありがとう存じます」


一人だけの執務室はこだわりが詰まっていると噂が届いているらしい。


まあ、あれだけ注文をつけて何かとあちこちから取り寄せていれば、噂が広まるのも当然かもしれない。