文官の執務室はみな共用である。


それを、いくら叙爵されたとはいえ、いち文官、しかも女性で庶民の出の者が、一人で自由に使えるようにするには、時間がかかったということ。

そして、女王はこういう仕事に合わせた処遇を、なんぴとにも与えていきたいと思っているということ。


以前褒美を聞かれたとき、殿下と同じ教師をつけてもらった。おかげで書き物に深みが出ている。褒美はそれで充分。


けれど、わたしがそれで満足していては、このくらいでよいと先例を作ってしまう。


後に続くひとのことを考えれば、爵位も、贈り物も、いただけるものを断る道理がない。執務室なんて、なおさら。


……わたしはずっと、自分だけの場所が欲しかったんだもの。


広くなくていい。机と椅子と資料棚さえ置ければ手狭でもいいから、誰にもなにも言われず、邪魔をされずに仕事ができる、私室とは別の部屋が欲しかった。


執務室があれば、寝る場所を確保するべく物の置き場に困ることも、インクが染みた机で食事を摂ることもない。


──あなたは、先駆けに。


ゆえにわたしは清廉潔白でなくてはいけない。好人物でなくてはいけない。後から照らされたとしても、ひとつも瑕疵(かし)のないように。


わたしは、この方の信頼を裏切りたくはないもの。