夜、わたしにとっては仕事の時間。いろいろと陛下のご相談に乗り、ご提案を済ませて退出しようとしたところで、名前を呼ばれた。


「ジュディス」

「はい、陛下」

「わたくし、あなたのための執務室を作るわ。気が回らなくてごめんなさい」


さりげなく言われた内容はあまりに突拍子もなくて、思わず勢いよく顔を上げる。


陛下はこちらの視線に気づいているはずだけれど、あくまで穏やかに書簡を(したた)めている。目は合わない。


目の前のひとがただの貴族であれば、当然のこと。けれど気さくで親しみやすい陛下は、御自(おんみずか)ら目を合わせてくださるので、目が合わない方が珍しい。


これはどう考えても意図的だった。


何でもないことのように装ってくださっている陛下に、頭を下げる。


「……いいえ、とんでもないことです。ご配慮ありがとう存じます」


気が回らなかったのではない。女王は、わたしが取りまとめた本の功績を理由に、地道な根回しをしてくれたのだ。