翌日、夜の仕事までの間に書類を取り寄せ、再度離婚申請を出した。


決してメルバーン卿のためでなく、わたし自身のために、あのひとの属人でいることがよいとは思えなかったから。


書類には夫のサインが必要になる。

ろくに内容を確認しないで署名するひとだから、以前は半ば騙し討ちのように他の書類に混ぜて書いてもらい、提出後に夫宛に離婚の確認が来て、今度こそきちんと内容を読んだ夫に取り下げられてしまった。


今回はどうしようかしらと思っているうちに夜が深まり、手元の呼び鈴が鳴った。陛下のお呼び出しである。


「陛下、ジュディス・プリムローズにございます。お呼びに従いまいりました」

「お入りなさい」


執務室にお邪魔すると、涼やかな衣装に身を包んだ陛下はなぜか上機嫌で、昨日のことを何も詮索されずに済んでほっとした。

もしかしたら、昨日、あの後薔薇の札を返しにきたメルバーン卿は、何か言われたのかもしれないけれど。


陛下の機嫌がたいへん麗しいこともあってか、すらすらと書簡ができあがり、暇を持て余した陛下に呼び止められてお茶のご相伴に預かりながら、取り止めもない話をする。


主に殿下のお可愛らしいご成長のご様子について花を咲かせ、こちらからも話題を出すよう振られたので、ひとつ願い出た。


「わたし、離婚申請を再度お願いしようと思っております。無事に離婚できた暁には、引き続き陛下の薔薇(プリムローズ)を名乗りたく思いますが、お許しいただけますでしょうか」


目を見開いた陛下が、パチリと広げた扇子で口元を隠しながら、ジュディス、とゆっくりこちらを呼んだ。


一言で分かる。微笑みの裏、静かにお怒りである。