「だから、もしお相手に好きなものがあるなら、それが危険なことや倫理的によくないことでない限り、できるだけ尊重したいと思う」

「まあ、悪いことしてるのは駄目だよな。俺たちは法律を扱う文官として、そのあたりはきっちり守りたいし」

「そうだな。違法行為を働くひととは、そもそも結婚をお願いするような関係にはならないと思う」

「なったらまずい。最悪解雇だ」


そうだろう、と頷いているのが聞こえた。


なんともまあ、色気のない、好みが分からない言葉選びだ。変に具体例を出して、勘繰られないようにしているのかもしれない。


「俺は料理上手な子がいいなー」

「お前な、ウィルん家は料理人雇ってるだろ。公爵家だぞ」

「我が家の料理長は腕利きだよ。いつも美味い」

「じゃあ、奥さんが働いてても、なに書いてても気にしないんだ?」

「しないよ。ただ、何もしない者よりは、何かをしている者の方が好ましいかな」


その結果がどうあれ、努力をしようという向上心は得難く思う。


「我が家は誰も気にしないし、それで関係が駄目になるような家風の方とは家ぐるみでお付き合いしていないし、家にいてもらうことだけが重要じゃないだろう」

「寛容だなあ、ウィルは。俺は気にする」

「自分の能力を活かして過ごしやすい生活を送るのは当然の権利だし、女性の労働や読書、執筆は法的に認められているし、それを奨励したとて、なにも悪いことにはならない。女王陛下もご推奨なさっている。寛容ではなくて、普通のことじゃないか?」


えーっ帰ったら家にいてほしいじゃん、ばかお前だから庶民と公爵家を比べんなって、などと続く会話の先は頭に入ってこなかった。