真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇

「人が仕事をすれば文句を言い、人が褒めれば文句を言うんですか、あなたは。いったい、私をなんだと思っているんです」


わざとらしく大きなため息が聞こえた。


そこで激昂しないのはこのひとの美徳だわ。穏やかなひとでよかった。


「普段、褒め言葉なんて言わないじゃありませんか」

「あなたの仕事ぶりを間近に見ることがありませんでしたからね。でも今は、あなたが女王の薔薇(プリムローズ)である意味が分かります」


それこそ、わたしのことをなんだと思っていたのか。

書き物など、お遊びだとでも?


「あなたの文章は、きれいで、淑やかで、必要なだけ聡明だ」

「必要なだけ、などと、意地の悪い言い方をなさいますのね」

「褒めているんです」


メルバーン卿の声は、深い。

静かに話すと、それだけで場を支配するような説得力がある。


特別な策略がなくても、ひとつずつ丁寧に話すだけで相手を絡めとれるだろうと思わせるような、強い声をしている。


「あなたは賢い方です」

「ありがとう存じます」


お礼を言えばやめてくれるかしらと慌てて割り込んだのに、少しも止まってくれなかった。


「だから、やりすぎないように、陛下の評判を上げ、王配殿下の御心を掴み、それでいて控えめでしとやかな文になるように、必要な言葉選びをよく見極めている」

「ご存知ありませんか。沈黙は美徳です」


声を上げぬ女は貞淑である。すなわち書く女は多弁な女、ふしだらな者として扱われる。


わたしの場合は女王陛下の認めた薔薇だから、これでも面倒ごとが少ない方なのだ。