真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇

「仕事でないなら、費用を抑えたいと言われました」


当然である。


娯楽に出すお金はない。日々の糊口(ここう)をしのぐのに精一杯で、蝋燭を買う余裕などない。


そう分かっていて、手伝うと言ったのだもの。


「夫は使用人ではありませんでしたので、住み込みで働くとなると、わたしだけがお邪魔する形になります。それは夫が難色を示しました」


女一人で住み込むなど、というのは分かる。まるで囲われているみたいだものね。


「ですから、家計の負担を抑えるため、蝋燭は使えませんでした。毎日お屋敷まで通い、帰宅後の家事の隙間を縫って、窓明かりを頼りに、窓辺に寄せたこの小さな机で書き物をしました」


わたしが城に持ち込んだ、唯一の私物。

小さな、正十角形の、木目のうつくしい机。


わたしの書き物と常に共にあったこの机を、あの家に忘れ去られたように置いていくのは、忍びなかった。


「それは……」


花瓶を置いた窓際の机を手で示すと、メルバーン卿は奇妙に口を歪めた。


高位な身分では目にしない大きさか、あるいは飾り棚程度の大きさか。

実際、窓際に花瓶を置くための飾り棚用の机を、ここだけはと頼み込んだのだ。


かつてあの家で、わたしの自由になったのは、この机だけ。


使用人に与えられた王城の隅の殺風景な一室より、またその中にある作業机より、わたしだけの居場所は狭かった。


「夫は、妻たるわたしが世間から悪様に言われることを避けました。そして、税金が嵩むこともまた、避けたかったのだと思います」