真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇

「ジュディスで結構です、メルバーン卿」

「……あなたは、カイムと呼ばれるのが、お好きでないのですか」


意外そうな瞬きを、じとりと見遣る。


メルバーン公爵家の嫡男として、家名を背負って生きてきた自負があるこのひとには、家名を隠したい気持ちはないのでしょう。


「そうですね、では……ジュディス文官と呼んでも?」


ほんとうは、役職は姓の前につくのだから、カイム文官と呼ぶのがふさわしい。


でも、わたしがカイムは嫌だと言った。

かと言って、名前を呼ぼうにも、嬢なんて呼ぶのは既婚者に対して失礼にあたる。呼び捨ては親しすぎる。


諸々を鑑みてくれたらしい。


「ええ、ぜひ。ご配慮ありがとう存じます」

「いえ」


こういうところの線引きは、さすがの有能さ。悪いひとではないのよね。


「メルバーン卿に命じられたということは、法に関することですね?」

「そうなりますね。我が国は細々した決まりごとが多すぎる。伝統あるかつてのよい決まりごとも、時代によってはそぐわないこともありましょう。悪法は正したいとのご希望です」

「では、紙と窓にかける税金を、減らしていただけたら嬉しく思います」

「紙と窓、ですか?」

「ええ。紙と、窓です」