コンコン、と小さく私室の戸がノックされ、机に向かっていた手をとめる。


……仕事仲間か、女王陛下のお呼び出しかな。


女王に認められた文才ということで、ときおり、仕事仲間の女性たちにも請われて書き物の相談に乗ることがある。

嬉しいことに、評判がいい。


「はい、お待ちください」


扉の向こうに声をかけ、ざっと机の上の諸々を端に寄せた。もし書き物の相談だったら、散らかっているより印象がいいものね。


ある程度見栄えを整えてから、扉に駆け寄る。


「お待たせしま……」


扉を開けると、爽やかな笑顔を貼りつけた長身の美丈夫がいた。即閉めた。はずが、ガッ、と扉と部屋の間に粗野に足を差し込まれて閉めきれなかった。


「ご機嫌いかがですか、薔薇のきみ」


低く深い声。うつくしい顔立ち。ウィリアム・メルバーン公爵子息。

メルバーン卿である。


次期公爵ともあろうお方が、なんて爵位に似合わない野蛮な真似を。


「ご機嫌よう、メルバーン卿。たった今頭痛がしてきたところです」

「それは大変嘆かわしいことですね。どうぞお大事になさってください」

「ありがとう存じます。あなたがその足を避けてくださったら、すぐにでもおさまりそうなのですが」


大きなため息をつかれた。ヘイゼルの瞳が憂いを帯びて伏せられる。


おあいにくさま。ため息をつきたいのはこちらだわ。