ちょっかいを掛けられて嬉しい相手ではない。

それがからかいを多分に含んでいるなら、なおさら。


面倒くささを抑えるように、もう一度カーテシーをする。


女王からいただいた首飾りが、ゆっくり揺れた。


「もしもわたしが足らざるゆえに、あなたさまのお気に召さぬなら、どうぞ陛下に進言なさってください」


わたしは陛下に取り立てていただいた身。陛下の薔薇(プリムローズ)

薔薇のきみと呼びながらわたしを下げることは、女王への反駁に他ならない。


「陛下のお望みとあらば、すぐにでもあなたさまの前から消えるでしょう」


身分の貴賤にかかわらず、外国人さえ重用する女王の自由な采配は、感嘆と畏怖を買い、少しの不和をもたらした。


「別に、消えてほしいわけではありません」


警戒しているのが伝わったらしいメルバーン卿は、ひとつため息をついた。


「あら、そうでしたの。ありがとう存じます。わたしはこれで失礼いたします」


無理矢理話を遮って、扉を閉める。


固く閉ざし、鍵まで掛けてしばらく息を潜めていたら、遠くから黄色い声がした。メルバーン卿は行ったらしい。


……黄色い声で居場所が分かるなんて、首に鈴をつけられた猫みたいね。


たいへん失礼なことを考えて、腹の虫をおさめたのだった。