高貴な貴婦人の白磁の肌はきめ細やかで、白粉など必要としないだろうと思わせる。


ふっくらとした唇は柔らかな色をしていて、強い赤を差したなら、むしろ彼女のうつくしさを損なってしまうかもしれない。


輪郭は滑らかで、鼻筋がするりと通り、長い睫毛は白い頬にほとりと影を落としている。


その女性は、顔立ちもうつくしいのだけれど、衣服までうつくしく、仕立てのよい絹の手袋が上品に指先を包んでいた。

手袋の袖口を絞る細いリボンには、白と青で小さな薔薇が刺繍されている。


作りのよい衣服、高級な絹、国花。


ここまで揃えば誰でも分かる。高貴なご婦人の、お忍びだ。

それも、この国一番の貴いご身分だと、白と青の刺繍が教えていた。


同席しようとした夫など、たった一言で追い払える権力を持っているお方なのだった。


「どうぞジュディスとお呼びください」

「ありがとう、ジュディス」


呼びかけをつけるか迷って、不敬と思い直してつけないことにする。貴婦人はなんとか答えたこちらに満足げに頷いた。


うつくしい絹の手袋をつけた細い指が、優雅に組み替わる。


「ご相談というのはね、あなたの文才を見込んでのことなの」

「……ありがとう、存じます。しかしお言葉ですが、わたしは何も出版しておりません。文才など……」

「わたくし、あなたの作品を読んだわ」


おずおず並べた言い訳を遮って、革張りの冊子が机の上に置かれた。


「こちらの書簡の言葉選びは素晴らしかったわ」


有無を言わさず開かれた中身は封を切られてぎっしりと重なった羊皮紙で、ひい、と口の奥で息を呑む。


ど、どこでこれを。というか、誰が、このお方にこんなものを渡したのよ……!