手を離さないままわたしの肩を引き寄せたウィルは、ちらりと周囲を見回した。
「焦っているんだ」
真剣な眼差しとともに、予想外な言葉が落ちてくる。
「きみがあんまり綺麗で、声をかけられるから」
「え? ……あれは、全てお仕事のことでしたわ」
会場に着いてからというもの、確かにたくさん声をかけられたけれど、お相手の領地の特産品とか、わたしの書簡集の話とかで、特別なことはなかったわ。
「声をかけようと、じりじり距離を詰めていた者も多かったよ。エスコートしてきた者に一度目のダンスを誘う権利があるから、誰もきみを誘えなかっただけだ」
ほら、とウィルが目線を流した先を見遣ると、こちらの様子を伺う男性がちらほら見えた。ときどき目が合うものの、隣のウィルを見て、ぱっと目を逸らす。
「彼らはみんな婚約者がいないか、独身だよ。仕事で来ているならなおさら、きみを誘うだろう」
ウィルは、やはり手を離さない。思えば確かに、今日はウィルの手が背中に触れたり、肩を引き寄せられたりすることが多かった。
……それは、わたしにとってはごく普通の触れ合いになっていて、牽制だなんて思いもしなかったけれど。
「きみは勅許の色を着られる立場で、爵位を持ち、未婚の女性だ。仕事ぶりも人柄も評判がいい。陛下からの信頼も篤い。いまこの会場に、きみほどの独身の有望株はいない」
でも私は、きみが有望株だからではなくて、きみが婚約者だから、踊りたいんだ。
「焦っているんだ」
真剣な眼差しとともに、予想外な言葉が落ちてくる。
「きみがあんまり綺麗で、声をかけられるから」
「え? ……あれは、全てお仕事のことでしたわ」
会場に着いてからというもの、確かにたくさん声をかけられたけれど、お相手の領地の特産品とか、わたしの書簡集の話とかで、特別なことはなかったわ。
「声をかけようと、じりじり距離を詰めていた者も多かったよ。エスコートしてきた者に一度目のダンスを誘う権利があるから、誰もきみを誘えなかっただけだ」
ほら、とウィルが目線を流した先を見遣ると、こちらの様子を伺う男性がちらほら見えた。ときどき目が合うものの、隣のウィルを見て、ぱっと目を逸らす。
「彼らはみんな婚約者がいないか、独身だよ。仕事で来ているならなおさら、きみを誘うだろう」
ウィルは、やはり手を離さない。思えば確かに、今日はウィルの手が背中に触れたり、肩を引き寄せられたりすることが多かった。
……それは、わたしにとってはごく普通の触れ合いになっていて、牽制だなんて思いもしなかったけれど。
「きみは勅許の色を着られる立場で、爵位を持ち、未婚の女性だ。仕事ぶりも人柄も評判がいい。陛下からの信頼も篤い。いまこの会場に、きみほどの独身の有望株はいない」
でも私は、きみが有望株だからではなくて、きみが婚約者だから、踊りたいんだ。


