真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇

「薔薇のお方、右を向いてくださいますか」

「はい!」

「ありがとうございます。よくお似合いですわ。では、次は目を閉じていただいて……」

「はい!」


宴当日、わたしは公爵家でぐるぐる目を回していた。


なにせ、わたし一人では準備がおぼつかないので、言われるがままになるしかない。

はい、はい、と元気よく返事をしながら、お抱えの方々にせっせと手を入れられ、磨かれているのである。


……薔薇のお方。なんだか不思議な感じだわ。


最近は忙しさにかまけて、ウィルや陛下くらいとしか、話していなかった。

あとはずっと仕事やらなにやらに追われていたものだから、わたしを薔薇のきみと呼ぶひとと話す時間──つまり外部の方と話す時間が取れていなかった。


いつもの使用人のみなさんなら、わたしをジュディスさまと呼んでくださる。

ジュディスと名前で呼ばれるのにすっかり慣れていたから、薔薇の方なんてメルバーン公爵家で呼ばれると、なんとも言えない気分だわ。


あれやこれやと準備をしてもらい、勅許のドレスを身につけた。全ての準備を終えたところで、恭しく香水が空気に撒かれる。

寝香水にともらった、ウィルがわたしの文に似ている香りという、薔薇の香り。


この香水は、夜、わたしの味方になってくれた。けれど今日から、昼の間も、わたしの味方になってもらうわ。