真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇

薔薇の札とこちらの顔を往復したヘイゼルを、じっと見つめる。メルバーン卿が一拍置いて口を結んだ。


「……以前、私はきみに忠告したと思っていたが」


呟くメルバーン卿の声色に困惑がにじんでいる。呆れても嫌がってもいないと踏んで、微笑んでみせた。


「覚えているからこの言葉を選んだのだと、思ってはくださらないのですか?」

「失礼した。きみは有能な女王の薔薇、覚えているに違いなかったな」

「いいえ」


扉に薔薇を掛け、鍵を掛けて、振り返る。


『……だから、やめてくれ。そんなことを言われると期待する』


「期待していただけると、嬉しいわ」

「なにを、」

「ウィリアムさま。わたしの自由にできるものは、靴くらいです」


耳慣れない呼び名に勢いよく顔を上げ、メルバーン卿──ウィリアムさまが、愕然とした顔でこちらを見た。


「……ジュディス嬢」


こちらの反応を伺うように、恐る恐る役職を外した呼び名に、にこりと笑う。


「靴くらい薄茶でも──好きな色でも、構わないとお思いになりませんか」

「ああ」

「伝統的な形式に則ると、勅許に合わせて作るのはたっぷりした裾のドレスですから、靴の色が見えにくくなってしまうのが申し訳ないのですけれど……」

「……構わない。見えなくてもいい」


きみが、私の名を呼んでくれるとは、思わなかった。