真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇

ドレスを贈りたいなどと再三宣うお方が、なにをおっしゃるのやら。


「勅許をいただきましたから、わたしの仕事柄、今後もドレスの色は変わらないでしょう。装飾品も髪型も、王城を辞すそのときまで、きっと変えないと思います」


頻繁に変えては出身の割に華美な装いになり、逆に顰蹙を買う。


「そうだな。その方がいい」


メルバーン卿が寂しげにこちらを見た。


首飾りも耳飾りも、紋章も、わたしは用意するべき諸々を、陛下から賜ったもので賄える。

陛下の優しさとお望みを無碍にはしたくない。


陛下はお優しい方よ。


勅許をくださったのは、わたしが誰の臣下かを示す意味の他に、わたしがいちいち細かなことに悩まなくてよいように、同じドレスが着られるようにという理由も入っているはずだわ。

他のご令嬢より少ない予算で準備が済むようにというお心遣い。


それを、ありがたく思いこそすれ、煩わしく思いたくない。メルバーン卿が、陛下のお優しさを残念がるようなひとでなくてよかった。


「メルバーン卿。わたし、個人的なお話をしたいのですが、こちらを掛けてもよろしいですか?」


わたしの執務室前に差しかかり、いつも持っておくようにと渡されている薔薇の札を見せると、メルバーン卿は目を見開いた。


おそらく部屋まで送ってくれるつもりだった。いつもなら、部屋までだもの。


でも、部屋には薔薇の札をかけられない。


わたし、あなたと秘密の(個人的な)話がしたいわ。