「大変な思いをした人には、お疲れさまと声をかけると思っていたんだが……私は何か、失礼をしただろうか」

「ああ、いえ……そう、ですね。お疲れさまですよね」


メルバーン卿は、何もおかしくない。礼を失してもいない。単純に、わたしが勘違いをしそうになったというか、なんというか。


メルバーン卿から別室で話をしたいと持ち出されたとき、危ないことをするなと、言われるかと思ったの。

メルバーン卿があまりにさらっと助け舟を寄越したものだから、なんだか幼い期待をしてしまった。


私を頼れと言われるのかと思った、なんて──自意識過剰すぎる。


カッと顔が熱を持った。視線を上げられずに彷徨わせるこちらを、ジュディス文官、とメルバーン卿は静かに呼んだ。


「はい」

「そういう顔をしないでくれ。自惚れる」


は、と目を見開く。


う、自惚れ……? 今、実に落ち着いた声音で、あまりに不思議な言葉を聞いた気がする。


勢いよく顔を上げた先で、うつくしい人が、困ったように眉を下げている。


「何度も言うが、私はきみを、怖がらせたくないんだ」