城に上がって一番にしたことは、これまでの書簡をすべて読むことだった。


女王の書簡は、たとえ王配の返事がなくとも毎夜書かれ、うつくしい便箋に(したた)められ、細やかな意匠の封筒に入れられて、丁寧に薔薇の蝋を押されて封緘(ふうかん)されている。

女王は、夫婦の関係を大切に思っているのだと伺えた。


けれどもその筆跡は、癖に気をつけて分類すると、十数種類あった。


字の大きさや書きぶり、ペンを止めたらしいインクのにじみなどが、少しずつ違う。


女王の文官が、忙しい女王の代わりに、口頭で伝えられたものを代筆したのでしょうね。

趣向の凝らされた紙の一番最後、陛下の名を騙るわけにはいかないので直筆と明確な金の署名とは、本文の字が全く違うと分かる。


……これは。初めて見たわたしでも気づくのだから、王配殿下もご存知でしょう。


いくら丁寧に書かれていても、字が違うのだもの。


言葉も、便箋も、封筒も、ほんとうに女王が自分を思って選んだものなのか、王配には分からない。

代筆した者に適当に任せてしまったのかも、同じく分からないのだ。


黙って次々に紙をめくりながら、どこまで進言するか考える。