ふと時計を見ると、真夜中の2時を回っていた。今夜はこのままここで夜を明かす事は可能だろうか。願わくば、帰りたくないな。

チビを見つめながらそんな事を思案していると、突然、保育器の中でチビが泣き出す。

思った以上に大きな声にどうしたものかと戸惑い、保育器の中に手を入れて、優しくトントンしてみるが一向に泣き止まない。

「…赤ちゃん…。」

その泣き声で目を覚ました心菜が、ベッドからこちらを見ていた。

「ああ、ごめん。起こしたか?」
俺は保育器をそっと動かし、心菜の手の届くところまで運ぶ。

「うわぁ、小さいね。可愛い。」
泣きじゃくる我が子と初対面した心菜も、感極まって涙を流している。

「検査は問題無かったらしいけど、しばらく保育器からは出れないらしい。」
先程、看護師から聞いた話をかい摘んで話し心菜を安心させる。

「手を貸して。」
俺は心菜の手を取り消毒すると、保育器の中に差し入れさせる。

ツンツンと頬を優しく突くと、チビは少しの間泣き止む。
「凄いな。心菜の事をママだって認識してるのかもしれない。」

俺は目を開けた我が子をひたすら見つめる。

「目元が蓮さんに似てる。」
心菜が嬉しそうにそう言うから、

「そうか?俺には心菜にしか見えない。」
と伝える。
ふふふっと笑って心菜はしばらく、我が子との対面を楽しんでいた。

しばらくすると、先程の看護師が戻って来て
赤ちゃんを連れて行ってしまう。

俺は泊まりの許可を経て、簡易ベッドで横になる。
怒涛のような忙しい一日がやっと終わった。

「心菜、元気な子を産んでくれてありがとう…。」
眠りにつく瞬間、なんとかそれだけを伝えて意識を手離す。