(心菜side)

「お帰りなさい…
心配させてごめんね。ワインが無かったから急いで買いに行って来たんだけど、どれが合うか分からなくて、時間がかかっちゃった。」

蓮さんの広い背中をヨシヨシと撫ぜてみる。

少しだけ震えているように思う。
私のせいで、要らない心配をかけてしまった事に自己嫌悪する。

「ワインなんて無くても生きていける。
だけど、心菜が居ないと俺は生きていけない。」

大袈裟なくらいの告白だけど、それほど彼を傷付けていた事に、今更ながら気付いて泣きたくなる。

「心配しないで。もう2度と蓮さんの側を離れないから。」
少しでも安心させたくて、ぎゅっと抱きついてみる。

「そうか…良かった。」
安堵したようで、蓮さんがフッと笑ってくれたから、私もホッとしてそっと離れてお互い笑い合う。


「腹減った。飯にしよう。」

蓮さんはそう言うと、私の持っていた荷物を取り上げ、代わりに手を繋いでゆっくりとした足取りで、一緒に家の中へと戻った。


「俺が留守の間、何か困った事は無かったか?」
夕飯の煮込みハンバーグを頬張りながら蓮さんが聞いてくる。

「そういえば昨日、夜にお父様が来ました。」

「何しに来た?」
途端に箸を止め、眉を寄せて嫌悪感を滲み出すから、

「出張で来られてるらしくて、私の事を見に来たんじゃないかな。籍を入れたのに一度もお会いした事が無かったから…。」
心菜は何でもない風を装って、食べながら話し続ける。