常連客が集う昼下がり。
心菜はいつものように店のレジに立ち仕事をしている。

この1週間、蓮が来てから一つだけ変わった事があった。それは、Dr.ライアンが店を訪れなくなった事。

ハンナに聞けば、多分仕事が忙しいんじゃ無いの?と、軽い返事だったけど…。
来月には病院に戻る予定だし、挨拶くらいはしておきたい。

心菜にとってDr.ライアンは恩師であり、こっちに来たばかりの時に、英語を教えてもらったり、仕事上の悩みや相談を聞いてくれた良き理解者だったから、勝手に兄のように思っていた。

今日も来ないのかな?
そう思い、心菜は出入口付近を見つめる。

蓮の部屋探しも先程、目処が付いたと連絡をもらったから、今月末には引越しになるだろうと思うと少し寂しく思う。

このカフェで働かせてもらったのは、たったの1か月。

されど、濃密な時間を過ごし素敵な人々に会えた1か月。心菜は勝手に第二の故郷が出来たように思っていた。

だから、この場所を離れる事に少しの寂しさを感じてしまう。そんな風に物思いに耽っていたら、

カラン

と、カフェの扉が開き久しぶりにDr.ライアンが顔を出す。

よく見ると、手には真っ赤な薔薇の花束を抱えているから心菜は不思議に思いながらも、
「いらっしゃいませ。」
と、笑顔で日本語で声をかける。