永遠のように思われた朝食が終わり、食後のコーヒーが運ばれてきました。

 わたくしは、コーヒーを吹き出さないように、ミッチーの様子に細心の注意を払いながらコーヒーを飲みます。

「ス、ステフ。今日は用事はあるのか」
「い、いえ。その、結婚休暇中ですし」
「そうか。そうだな。そうだよな」

 結婚休暇中なので、夫との用事以外、何も予定がございません……。

「では、後でその、久しぶりにカフェルームで話でもしよう」
「わ、わ、分かりました、わ」
「そ、そうか、分かってくれたか」
「は、はい……」

 あまりにぎこちない会話に、きっと室内にいる全員が『この空気をなんとかして!』と思っていたに違いありませんわ。

「ス、ス、ステファニー」
「はいッ!?」

 しまった、考え事をしていて、背後にミッチーが立っていたことに気が付きませんでしたわ!?
 一体何をするつもりですの、何をされてしまうんですの!?

 震えるわたくしの背後から、大きな体で覆いかぶさるようにしてミッチーはわたくしの前方に手を伸ばします。

「ミッ……」

 思わず目をつぶりましたが、ミッチーは意外なことに、わたくしに触れてきませんでした。
 こくりと耳元で音がして、わたくしはミッチーを振り仰ぎます。

「……?」

 よくよく見ると、ミッチーはわたくしが飲みかけだったコーヒーのカップを手に持っていました。
 どうやら、わたくしの飲んでいたコーヒーを飲み干してしまったようです。

「……?? あの、それはわたくしの……」
「わ、分かっている。その、だな、ステファニー」
「はい」

 一体どうしたというのです。

「かッ……間接キス、だな……ッ?」

 ミッチぃいいいー!!???

 赤い顔をして震えているミッチーは、思わずずれたメガネをくいっと直すと、慌てたように食堂を立ち去っていきました。
 口をハクハクさせているわたくしは、食堂に取り残されたままです。

 一体、今日は何が起こったのでしょうか。

 もう一度侍従侍女達の方をギュンッと振り返りましたが、数を少なくした彼らは、やはりブンブンと顔を横に振っていました。