朝食の準備が整い、食事が開始されましたが、何を食べても全く味がしません。せっかく大好物のエッグベネディクトなのに、味わうどころか、卵を切るナイフを握る手すら震えてしまいます。


 なにしろ、食事中もずっと、ギンギンに充血した瞳でミッチーが舐めるようにわたくしを見ているのです。


(一体何を見ていますの……そんなに見つめても、何も生まれてきませんわよ……!?)

 若い侍従侍女達が次々に交替しては脱落していく中、心の平穏を保とうとするわたくしに、神は無惨にも新たなる試練を与えてきました。

「あ、あさ、朝日っ、の中で見るステファニーはこんなにもっ、美しかったんだな……ッ」
「ゲホッゴホゴホォオッ!?」
「大丈夫かステファニー!?」

 急に! 食事中に!! 何を言い出すんですのおぉおお!!!!

 ミッチーの斜め上からの不意打ちに、わたくしは口に入れたマフィンを喉に詰まらせてしまいます。
 慌ててミッチーから差し出された水を飲み、喉元を落ち着けました。

「すまない、ステフ。君を見ていると自然と賛辞が思い浮かんでしまうのだが、君が口に物を入れている時は控えよう……」
「そ、それがよろしいと思いますわ」
「うん……。私の愛が君を傷つけるなんてあってはならないことだからな」
「ゲホゲホゲホ」
「ステファニイィイー!?」

 今度は水でむせたわたくしの背を、ミッチーが撫でてくれます。
 わたくしは最後の頼みの綱、老執事の方に『メーデー! メーデー!』と必死の救難信号を送りましたが、老執事は涼しい顔をしてわたくしのグラスに追加の水を注いでいました。ひ、酷いわ!