なんとミッチーが、モタモタと立ち上がったかと思うと、そんな熱に浮かされたようなセリフを吐きながらわたくしに抱きついてきたのです!

(どういうことですの、何が起こったんですの、わたくしどうしたらいいんですの)

 頭が真っ白になり、淑女としてあり得ないくらい、口がカパっと大きく開いてしまいます。

 そんなわたくしを、ミッチーは愛おしそうな目――ではなく、ギュンギュンに充血した瞳と必死の形相で凝視してきます。

(怖い!)

「ス、ステファニー、マイラブ。今日の最初の君へのちゅーは、わ、わた、私のものだ……」
「!!??」

 なんとそこからミッチーは、声も体も震わせながら、わたくしの頰に口付けしてきたのです!
 首から上を真っ赤にして、緊張で若干汗ばみながらメガネの奥のベリー色を揺らすそのセクシーかつキュートな姿に、わたくしも目を大きく見開いて凝視してしまいます。

 普段のわたくしなら、こんな格好の獲物が目の前にぶら下げられたら、オオカミに変身して好き勝手にミッチーをいじり倒していたでしょう。
 しかしながら、ミッチーがこのような行為に出ること自体があまりに想定外だったため、驚愕のあまりわたくしは動くことができません。

「さ、さあ、席につこうか。朝食をいただこう」
「は、はひ」
「君の好物ばかりを用意してもらったんだ」
「そ、そうですのね……」

 ミッチーは椅子を引いて、わたくしを席に座らせてくれます。
 ミッチーは普段から、こういうさりげない気遣いを欠かさない男なのです。

 ようやく普段どおりの流れに……いやでも一体これはどうなっているのだ……と、わたくしは自分の手元を見ながらぐるぐると思考の渦に飲み込まれていきます。

(ダ、ダメですわ、この事態はわたくしの処理能力を超えていますわ)

 わたくしは必死の形相でメイド長の方に目線をやり、『助けて!!』とアイコンタクトを送りましたが、メイド長はそっと目を逸らしてしまいました。
 メイド長ぉー!!

「ステフ」
「ひぇッ!? は、はい」

 戦々恐々としている中、急に話しかけられてつい変な声が出てしまいます。

「しょの愛らしい瞳に私以外のものバカリ映すなんて、悪い子だナ……」
「!!???」

 ミッチーどうしてしまいましたのぉおおー!!???