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 龍美家の二男・龍美征雅は、あれから御影の指示で、帝直属の官憲に引き連れられて行った。

 どういう捜査をしたのかは教えて貰えなかったけれども、やはり征雅は、四年前の事件に関与していたらしい。

「その征雅って人は、萩恒家に何かされたんですか?」
「いや……」
「崇史様?」
「何をした訳でなくとも、人は人に憎まれることがあるらしい」

 遣る瀬無い想いの込められたそれに、さぎりは追及しなかった。
 手を握るさぎりに、崇史は力なく微笑む。

「龍美は征雅を切り捨てた。四年前の事件は、征雅の独断で関与したものだそうだ」
「そんなことがあるのでしょうか」
「……どうだろうな。少なくとも、征雅は独断でやったと言っていたらしい」
「……」
「ただ、奴は単純な男だ。音梨家の何某(なにがし)かも関わっている様子だし、利用された可能性は高いな」

 崇史の言葉に、さぎりは目を伏せる。

 あの香り袋を作ったのは、おそらく音梨家だということだった。崇史だけではなく、御影もその配下の調査員も、そのように判じていた。
 しかし、当然ながら、音梨家がそれを認めなかったのだ。

 手掛かりは、誰が作ったとも分からない、残った香り袋だけ。
 六大公爵家の一つである音梨家に、薄弱な根拠で疑いをかける訳にはいかない。

「諦めた訳じゃあないのよ」
「御影様」
「けれど、今は機ではないわ。ごめんなさいね。辛いと思うけれど、耐えて頂戴」

 そう言う御影に、崇史もさぎりも頷くしかなかった。

 何故ならば、唯一の手掛かりであった征雅は、もうこの世にいないからだ。

 牢に入れられていた征雅は、一週間後、苦しんだように顔を引きつらせながら、息を引き取っていた。
 周りを固めていたのは、帝直属の官憲達。
 これは何を意味するのか。

「皇族に、裏切り者が居る」

 唇を噛む御影と崇史に、さぎりはかける言葉がなかった。

 そして、崇史の叔父・佐寝蔵(さねくら)律次(りつじ)も姿を消した。

 まだ終わっていない。
 それだけは、さぎりにも理解することができた。