「昔のこと、ですので」
「若い人の『昔』は、全然昔じゃないことが多いのよね」
「奥様」
「まだ、その方のことが好きなのね」

 迷った末、こくりと頷くさぎりに、子狐が「きゅん!?」と驚きの声を上げている。

「その方は、どんな方なの?」
「う……い、いつも、お優しくて」
「きゅん!?」
「お若い頃から、ずっと頑張っていらっしゃるんです」
「きゅ、きゅーん!!?」
「ふとした時の笑顔が、あどけなくて……ずっと、頭から離れなくて」
「くぅん!?」
「身分が違いますし、私はこういう見た目ですから。もう、昔のことで……」
「もしかして、前のご主人様?」
「……! す、すみません」
「きゅん!!!!」
「いいのよ。甘酸っぱいわねえ。……それにしても、子狐ちゃんは、忙しそうねえ」

 さぎりの話を聞きながら、オロオロと青ざめていた子狐は、さぎりの最後の一言を聞いた後、急に安心したような素振りで、おはぎを食べ始めた。
 御影がそんな多忙な子狐を撫でると、子狐は気持ちよさそうに目を細めている。