すると、私の耳元で。

「お前はちょっと自覚しろ。心春は…それなりに可愛いんだって。向井ってヤツも、心春に気が合ったから俺に絡んできたんだよ、バーカ」

と、夏希は若干眉をひそめつつ、そう言い放った。

「……な」

今のは、褒められたの?馬鹿にされたの??

言われた言葉を反芻し、なかなか言葉が出てこない私をジッと見つめるヤツの視線に気づく。

「…フッ。真っ赤」

「…!?」

確かに夏希から「可愛い」なんて生まれてこの方言われたことなかったから、ちょっとは顔が赤かったかもしれないけど。

何か言い返さなければと、口をぱくぱくさせていたその時。

〜♪

「ん?」

夏希のスマホがメッセージの通知を告げる。

「心春、姉貴着いたってさ。行くぞ」

どうやら、春姫ちゃんが駅に到着したみたいだ。

サッと私に向かって手を差し出す夏希の手をおずおずと握る。

「う、うん」

あれ?ちょっと待って…!おかしい。
何で、私ってばこんなにドキドキしてるの…?

夏希の手を掴んだりなんて、今までも普通にしててじゃん。何で今さら…っ。

この日を境に、私は気づいてしまったんだー…。

夏希に対しての"特別な"気持ちを。

そう。この日が私が夏希を幼なじみとしてじゃなくて、異性として意識しだしたきっかけ。