いつもは、翔也が教室で私に話しかけてくることなんてないのに。


なんで今日に限って、話しかけてくるの?


「待って、白井さん」


え。この声……。


後ろから呼ばれて振り返ると、なんと翔也が追いかけてきていた。


だけど私は、気づかないフリをしてそのまま歩き続ける。


「白井さん、待って」

「……」

「なぁ、理帆。待てって……!」


翔也が後ろからあっという間に追いつき、私の腕を掴む。


「ちょっと、長嶺く……」


手を振りほどこうとするも、翔也の手はビクともしない。


ていうか、ここ廊下だし。

近くにいる人たちが、何事かとこちらをチラチラと見ている。


早く、翔也から離れなくちゃ。

ただでさえ翔也と一緒ってだけで目立つのに。


「長嶺くん、皆が見てるよ」

「わ、悪い……」


翔也が、私の腕を掴んでいた手を慌てて離した。


皆が見てるって言った途端、すぐ手を離すなんて。

私の胸が、チクッと痛む。


「……もう、いい」

「理帆……」


私は、再び廊下を歩きだす。


昨日みたいに泣きそうな気持ちになり、私は唇を引き結ぶ。


翔也は私のことを、もう追いかけては来なかった。