いぶかしげなベアトリスに構わず、フェルナンは立て続けに問いかけてくる。

「お前が引き受けるというのなら、詳細を話す。どうする、セレーナの影武者をやるか、やらないか。今ここで決めろ」

「決めろとおっしゃられましても、その仕事をするメリットが私にはありませんわ」

「完遂の(あかつき)には、お前の罪を帳消しにしよう。互いに利益のある契約だ、悪い話ではないだろう?」

 取引は最初の条件提示が最も重要。
 ひとつしかない命を、恩赦程度の報酬で安く買い叩かれるのはごめんだわ。
 
 ベアトリスは強気に交渉しようと決めた。
 
「身代わりというのなら、危険な仕事になるのでしょう? 私は対価として命をかけるのです。恩赦に加えて、こちらのお願いを叶えてくださるのなら、お受けいたします」

「罪人の分際で、この俺と対等に取引できるとでも?」

「刑期が終われば、私は晴れて自由の身になれます。命がけで恩赦をいただく必要性が、こちらにはございませんわ」

 追放した人間をわざわざ急ぎ呼び戻したところを見ると、セレーナはよほど危険な状況に置かれているのだろう。さらに、身代わりの適任者がベアトリスしかいないと推察できる。
 
 フェルナンは気付いていないようだが、現状この取引はこちらが優位だ。
 ここは熟考する時間を与えず、一気に攻め立てる!

「残念ですが、交渉決裂でございますね。それでは、さようなら」

 ベアトリスは涼しい顔でそう告げて、すっと立ち上がった。