(この男、私という婚約者がいながらセレーナと影でコソコソ浮気していたのよね。しかも、ろくに私の話も聞かず追放するなんて! 何度思い返しても最低な奴。復讐はしないと心に誓ったけど……。あー! 顔を見るとイライラが止まらないわぁ)

 荒ぶるベアトリスの内心に気づくはずもなく、フェルナンはこちらをじっと見つめると、小馬鹿にするように鼻を鳴らした。
 
「ふぅん。てっきり憤慨し暴れるかと思ったが、まともな受け答えが出来るようになったではないか。苦労を経て少しは大人になったようだな」

 挑発的な言葉に、ベアトリスは憤りを必死に押し殺し、笑顔で応対する。

「ええ。殿下からいただいた『己の愚かな悪行の報いをしかと受けるがよい』というありがたいお言葉を胸に、わたくし強制労働所で精一杯、頑張りましたの」

(私、アンタの言ったこと一言一句覚えているからね! 愛想笑いしているけど、今でも恨みの気持ちは消えてませんコトよ、おほほほ~)

 そんな怨念を込めて言うと、フェルナンはようやくベアトリスの気持ちを察したのだろう。やや表情をこわばらせ、気まずそうに咳払いで場を仕切り直した。

「コホン。そ、それで、今回お前を王都に呼んだのは、やってもらいたい仕事があるからだ」

「仕事、でございますか? 具体的にはなにを?」

「セレーナの身代わり。いわゆる影武者だ」

「影武者?」

 さっそく物騒な話になってきた。