鉱山労働所を出発したベアトリスたちは、数日かけて王都に到着した。

 ユーリスのエスコートで宮殿に入り、旅装から謁見のためのドレスに着替えて応接間でフェルナンの訪れを待つ。

 因縁の相手との再会に緊張が最高潮に達した頃、ようやく部屋の扉が開かれた。

 現れたのは、白地に金の刺繍が施された王子服を身にまとい、銀色の長髪を後ろでひとまとめにした背の高い男性。

 王子然とした優雅な所作で正面に座った彼こそ、ベアトリスを追放した元婚約者、フェルナン第一王子だ。

「久しいな、ベアトリス。鉱山での落盤事故の件はユーリスから聞いている。ずいぶんと活躍したそうじゃないか。大義であった」

「お褒めにあずかり光栄でございます」

 ベアトリスは淑女らしく落ち着いた返答をしながらも、心の中で悪態をついていた。

(ふん! あいっかわらず、古風で偉そうな口ぶり。本当に変わらないわね、この俺様男)

 ふたりの婚約が決まったのは、ベアトリスが十五歳、フェルナンが十八歳の時。
 
 それから約二年。婚約者らしくデートをしたり、ともに夜会に出席したりしたが、仲は深まるどころか悪化するばかり。

 それもそのはず。高飛車なベアトリスと俺様なフェルナンは、性格がやや似ているからこそ互いに反発してしまう、いわゆる同族嫌悪の関係にあった。