【書籍1巻発売&コミカライズ進行中】悪女の汚名返上いたします!

 ──『あ、ありがとう、ユーリス』

 脳裏に浮かぶのは、素直に感謝を述べながらこちらを見上げる、先ほどのベアトリスの姿。

(あのベアトリスに礼を言われる日が来るとは、予想外だったな)

 ユーリスから見たベアトリスは、とにかく気位が高い女という印象だ。
 
 呪具使用の罪が明らかになってからは、そこに『許されざる罪人』という項目も追加され、心証は最悪。
 
 任務とはいえ顔を合わせるのは気が重かったのに……。

 
 先ほどはつい……真っ赤になって狼狽える彼女の姿が、ほんの少しだけ可愛らしいと思ってしまった。

 
(俺はなにを考えているんだ? 相手は罪人、やすやすと気を許してはいけないだろ)

 風呂上がりの彼女のために、温かな紅茶を淹れてやりながら自らを(いまし)める。

 ベアトリス・バレリーは、異母姉を虐げたうえ、呪具で神聖力を奪い続けた『稀代の悪女』。

「人は簡単には変わらない。悪人は一生、悪人のままだ」

 ユーリスは自分に言い聞かせるように呟いた。
 
 浴室の方から響いてくる水音が、リビングにも(かす)かに聞こえてくる。
 
 ピチャン、ピチャンと水滴が跳ねる音で雨を連想したユーリスは、ふと過去の出来事を思い起こした。
 

 ──『貴女は、セレーナの味方なのね』

 
 それはユーリスがベアトリスに初めて出会ったあの日。
 ベアトリスの母親である、バレリー伯爵夫人の葬儀でのことだった。