【書籍1巻発売&コミカライズ進行中】悪女の汚名返上いたします!

「これはいったい、なんの騒ぎですか?」

 咎めるようなユーリスの問いに、見習いたちは一斉に肩をびくつかせた。
 
 ベアトリスの腕を折ろうとした例の少女が、こちらを指さして叫ぶ。

「聞いてください、ユーリス様! この人が『仕事の邪魔をした』って言いがかりをつけてきたんです!」

 少女の言う「この人」とは、もちろんベアトリスのことである。
 
 さすがに、その言葉でプツンと堪忍袋の緒が切れた。

「はあ? よくもまあ、ぬけぬけと。被害者面するのはやめなさい! こっちは洗い立ての洗濯物を台無しにされて、冷水をぶっかけられたあげく、腕を折られそうになったのよ! どう見ても被害者は私でしょうがっ!」

 思う存分、怒りをぶちまけると、少女たちは猛獣に遭遇した子ウサギのように身を縮こませ「ヒッ」と怯えた。
 
 そこでベアトリスは『まずい』と悟る。

 目をつり上げて怒るベアトリスと、涙ぐむか弱い乙女。
 状況を知らず、この現場だけを目撃した人は、果たしてどちらの味方をするだろう……?

 答えは明白。
 
 集まってきた聖女見習いや騎士は、怯えて立ちすくむ少女らに同情の眼差しを向け、その一方で、ベアトリスを蔑むように睨んでいた。

(あぁ、そう……結局、私が悪者にされるのね)

 バッカスは『人生やり直せる』と言っていたけれど、そんなの嘘。
 
 ひとたび悪女の烙印を押されてしまえば、それを覆すのは不可能。
 釈明してもどうせ誰も信じてくれない。